COTTON 綿

綿は1930年代のアメリカで遺伝子レベルで変わり、ジーパンの色も変わった

服などの布の製品を評価する指標はたくさんありますが、ていねいに読み解くと、実は繊維がその大半に影響を与えています。

「綿」繊維と他の繊維との違いはどこにあるのでしょうか。

人々にどう認識されているか、天然繊維の物質としての違い、歴史から、「綿」繊維の違いを導き出しました。

いまの結論はこうです。

「綿」繊維と他の天然繊維の違い

綿は肌に触れたり、肌に近い製品や、活動的で汚れやすい状況で使う製品に合います。

シワ感のある性質のためカジュアルウェアに最適です。

実は、天然繊維の中では、「綿」だけ特殊な存在です。
さらに詳しく説明するとともに、より深い「綿」の価値へのヒントを探っていきます。

繊維の綿のはたらき#

では、ものとしての「綿」は具体的に他の繊維とどう違うのか?

植物の「綿」が人にあたえる効果を見ていきましょう。

「綿」の感覚的な効果は、大きく2つの特性に分けられます。

・さわり心地などの 1.肌でわかる触覚性
・色などの 2.目でわかる視覚性

詳しく見ていきましょう。


1.肌でわかる触覚性

やわらかな肌触りで肌にもやさしい
繊維の中でも、綿のTシャツは肌にやさしいく感じますよね。

肌へのやさしさをもたらす、物質の要素をよくよく分解してみると…

製品のTシャツ → 糸 → 綿植物 → 繊維の集合体→ 繊維1本、となっていきます。

つきつめると、Tシャツとは繊維の分子の小さな小さな働きの集合なんですよね。

ということで、「綿」繊維の1本の拡大写真を見てみましょう。

「綿」繊維の1本は、種子の表皮細胞が細長く生長したもので、1個の細胞が1本の「綿」繊維となっています。

大きくねじれがありますね。この撚りが、伸縮性を生み弾力性につながり、柔らかい感覚をあたえてくれます。

綿のTシャツが肌に優しいのは、肌に触れる際に弾力性と柔らかさをあたえる構造が理由のひとつ。
もうひとつは、人間の肌に親和性があるセルロースで94%が形成されている「綿」繊維自体の成分が理由です。

これが、「綿」繊維の肌でわかる触覚性の大きな要因ですね。

汗を吸い、洗濯に強い
綿製品は、洗濯機で洗濯しても問題がなく、吸湿性に優れています。つまり水に強いわけですが、それも「綿」繊維1本の、構造に起因します。

「綿」繊維1本は、細かいネット状の線の束、で形成されています。1本の線ではなくて、めちゃくちゃ微細な線の束がひとまとまりになって、1本に見えているだけなんですね。

この微細な線ひとつを、セルロース分子のミクロフィブリルと言います。
線に見える分子は、さらに見ると管状になっています。ミクロフィブリルは、植物だったときに水や養分を運ぶ道でした。

さらに「綿」繊維1本は、中心が空洞になっており、地層構造になっています。この構造が、水分や他物質が通過できる理由です。

これらの繊維構造と分子構造が、吸水性、吸湿性、染色、加工のしやすさを生んでいます。それもそのはずで、植物が水や養分を循環させて生きていたわけで、水に強いはずです。

オールシーズン使える
この構造と特性は、水分と同様に、熱の伝わりやすさや放出のしやすさの流れも生み出しています。

綿製品は、織り方や編み方次第では、夏冬関係なく温度を調整することができます。


2.目でわかる視覚性

シワになりやすく縮みやすい
綿製品は、シワ感が出やすい繊維です。

肌でわかる実用性で見てきた繊維構造が、そのまま見た目にも反映されています。なぜシワが出るかというと、

繊維をはかる指標として、ツヤ感とシワ感があります。ツヤはドレス感を出し、シワはジュアル感を出します。「綿」繊維は、シワが出る特性を持つので、ファッション的にはカジュアルな製品に向きます。

色落ちについて
色落ちが綿の弱みだと言われることもありますが、色落ちは元来弱みではありませんでした。

古着屋で1930年ごろのデニムは高額で取引されています。その希少性の根拠は、デザインでなく布と色にあります。「綿」布の色は、今のモノより、実はもっともっと複雑だったのです。それはなぜか?

1930年以前と以後では、この「綿」繊維の特性が変化していることがわかっています。
最近の研究では一般的な「綿」布と有機栽培「綿」布の特性から、有機栽培「綿」布の方が保持する金属元素の割合が高いことなども報告されています。

1930年をさかいに何が起きたのか?
つぎは「綿」の起源にさかのぼり、現在までの流れを追っていきます。


植物の綿のむかし#

15世紀ごろまでヨーロッパでは「綿」の存在が知られていませんでした。

17世紀に東インド会社が本格的に輸入を開始します。キャラコのように、インドの土着的な文化だった「綿」製品が、大英帝国(イギリス)に発見されたのです。

今につづいている近代繊維工業化の発端は、ヨーロッパ諸国のインド/アフリカ/マレー半島などへの、侵略と植民地化とグローバル化にあります。
ジャイアンがのび太の漫画本を、力で奪うみたいなものですね…

イギリスで「綿」製品が大流行します、「綿」製品の使い勝手と見た目のよさが、人々を大変に魅了したのです。

真夏に、ウールのTシャツしかなかったときに綿のTシャツが出てきたら、それは綿のTシャツ着ますよね。

だから、この「綿」製品の大流行の影響は絶大でした。

しかし、イギリスでは気候の関係や、自国の毛織物産業の売上に影響する等の政治的な理由で「綿」が作れませんでした。

でも、イギリス国内のユーザーからはめちゃくちゃに需要がありますから、イギリスは、アメリカやインドなどの植民地の各地で、綿栽培を推進します。

1776年に、イギリスからアメリカ合衆国が独立します。産業革命がアメリカ国内でも展開されていきます。

その後アメリカは、世界大戦を経て、世界最大の先進国へと成長していきます、科学と生産の武器をフル稼働させながら。
時代は、大量生産大量消費へ突入していきます。

出典:スチュアート・ブルシェイ著、アルフレッド・チャンドラー編「綿と米国の経済成長」

「綿」製品の人々を魅了し続ける効果は衰えることをしらず、需要は繊維の中で群を抜いていました。

需要に答えるかたちでアメリカは、世界に先んじて「綿」繊維の量産を開始します。

Cotton field in Sukhumi Botanical Garden, 1912

誕生以来、長い時間をすごしてきた「綿」植物ですが、急激な変化が起き始めるのは、この時期からです。最近です。

出典:米国農水省

1930年からの、放射線による突然変異。育種や品種改良。遺伝子操作と化学肥料をワンセットとして組み合わせた栽培方法の確立。

いくつかの再現性がある科学的手法を手探りで積極的に活用し、大量生産を実現させていく。テクノロジーが自然を取り込む瞬間です。

「綿」繊維、現在の世界の生産量と場所の統計データ#

いま現在の「綿」繊維の状況も、世界の総生産量の比較から見てみよう。合繊は、比較のための例として出しています。

出典:総務省統計局「世界の統計」と日本化学繊維協会「内外の化学繊維生産動向」を基に作成

生産量を見ると、合繊が圧倒的に多いが、次いで、綿がダントツで生産量が多いことがわかります。基本的に1930年以降の綿栽培は、科学技術を駆使した生産が加速し成熟しています。

このデータからわかることは、綿に比べて、その他の天然繊維は、20〜140倍もの桁違いで生産量が少ない点です。

これは、「綿」繊維と合繊以外は生産量が自然のまま、を意味します。「綿」繊維以外は、科学技術を駆使したレバレッジがかかっていないんですね。

これが、綿だけが天然繊維の中で特殊な存在である理由です。綿の絶大な人気の需要に答えるかたちで、通常の自然栽培では作り得ない手法を発明し、供給を満たしたのです。

出典:総務省統計局「世界の統計」から

現在ではアメリカだけでなく、世界に広く分布している綿栽培。綿の品種は、1930年以降に作られた品種が、全世界の生産量の 90%以上を占めています。

生産場所で見ると、インドとアメリカと中国を軸にして直線上に分布している。綿は熱帯植物なため、北緯40°以北では育生しません。

ちなみに日本は綿をほぼ輸入しているが、日本の気候は綿生産には一部向いており、生産している。

しかし、アメリカが綿を大量生産し始める前はどうだったのでしょうか?

植物の綿のおおむかし#

1930年以前の綿は、何だったのか?#

「綿」の祖先であるゴシピウム種は、約500〜1000万年前にアフリカで育っていた1つの種が起源であるとされています。

その「綿」の祖先は、約200〜1000万年前に、アフリカを飛び出して、水のある土地に広がり、新しい環境に適応し、増えていきます。

出典:learn.genetics/The Evolution of Cotton/ Dr. Joshua Udall and Dr. Jonathan Wendel

100〜200万年前に遺伝子レベルでの変化が起き、アフリカのAゲノム種とアメリカのDゲノム種を含むさまざまな種へ徐々に変化していきます。そこから人間との共存が始まるまで、約 99 万年の時を待つことになります。とにかく生きてきた時間が長い。

人間が綿を使い、綿織物を作りはじめる人間が作った最古の綿織物は、およそ8000年前で、ペルーのチカマ河谷ワカ・プリエタなどで見つかっています。その場所は、乾燥した気候で、文明地のお墓や都市遺跡です。

世界全体で見ると、綿織り物や綿編み物が手作業で、多く生産されるようになったのは、4000〜5000年前頃とされています。

しかし、250万年前の旧石器時代に作られた、残る石器などと違い「繊維」は土に還ってしまいます。「繊維」も実際はもっと古くから触れていたことが推測されます。7万年前にヒトは衣類を着るようになったとも言われています。

「綿」は人と共に、アフリカ地域、アメリカ地域、南アメリカ地域、中国地域など全世界に散らばり、共存します。家畜化です。

出典:learn.genetics.The Evolution of Cotton/ Dr. Joshua Udall and Dr. Jonathan Wendel

「綿」が人間と共存すると、しだいに文化が生まれます。インドで伝統的な職工によって作られていた綿織物のインド更紗(=キャラコ)などは、その代表ですね。

インド更紗のように、各国の土着的な文化だったものが、17世紀ごろ大英帝国に発見されキャラコと名付けられて行くわけです。


植物の綿のきほん#

ここで、「綿」のきほん情報を整理します。

繊維 綿/植物繊維/セルロース繊維


品種 ゴシピウム・ヒルスツム/ゴシピウム・アルボレウム/ゴシピウム・バルバデンセ


起源 500~1000万年前


「綿」のいま・きほん・むかしの情報から、「綿」の使い方のみほんを導き出しました。名品・定番となった服を知ることで今後の参考になるはずです。

綿の製品のみほん#

「綿」はむかし、どのように使われてきたのかを見てきました。その起源から、年月をかけて名品・定番となった服を知れば、布を活かすための、さらなる参考になるはずです。

綿製品の名品
1930年頃のデニム、T シャツ、スウェットシャツ、トレンチコート、ブラウスなど

デニムとTシャツ/ジェームス・ディーン

V付きスウェット/インシュタイン

トレンチコート 1941

白シャツ/ジェーンバーキン


綿に向く製品
デニム、T シャツ、スウェット、タオルなど使い続ける日常の布全般


綿の参考資料#

Learn.Genetics/The Evolution of Cotton(https://learn.genetics.utah.edu/content/cotton/evolution/)

セルロース繊維の形態学的構造と機能性/繊維機械学会誌