マドラス
MADRAS
インドの田舎に生まれ、アメリカの大都市でステータスシンボルに成り上がったマドラス
「マドラス」と他の布との違いはどこにあるのでしょうか。
人々にどう認識されているか、布の物質としての製造方法の違い、歴史から、「マドラス」の違いを導き出しました。
いまの結論はこうです。
「マドラス」と他の布の違い
マドラスは、インドの農民階級の布として生まれた。現在は、たくさんの色と違う幅のシマの交差による複雑なチェック模様の布。
「マドラス」が他の布と違うポイントは、
- インドのマドラス地区で生まれた普遍的な布が起源であること
- ランダムな配色のチェック模様として定着したこと
主にこのふたつにありました。
これから、さらに詳しく説明するとともに、より深い「マドラス」の価値の源泉を探っていきます。
マドラスのいま#
いま日本で、人々は「マドラス」をどう認識し、消費しているのでしょうか。
インターネットや雑誌等々を見る限り「マドラス」は、_マドラスチェックの模様_がいちばん認知されているようです。
布を素材として販売している市場はどうでしょうか。
インターネット上では、「Amazonのマドラス布一覧」や、「楽天市場のマドラス布一覧」、テキスタイルモールの布一覧などで、手軽に買うことができます。
こうやって全体的に見渡すと、素材としてどのように使えるか、どのように売られているのかが見えてきます。
「マドラス」は
- 夏の衣類
- パンツ
- ショートパンツ
- ドレス
- ジャケット
などに向いていて、そのために使われています。
マドラスのきほん#
では、実際に、物質としての「マドラス」は具体的に他の布とどう違うのか?
現在、「マドラス」はほぼ「マドラスチェック」の布と同義になっています。
マドラスチェック模様が、他のチェック模様と違うのは、色と線の幅が不規則なところです。3色以上の複数の色使いで、タテとヨコの色の配列のパターンもバラバラです。
タータンチェックやギンガムチェックなどは、模様の中に正方形の模様ができますが、マドラスチェックは違います。
このような「マドラス」の違いはどこから生まれたのか?その起源にさかのぼってみます。
マドラスのむかし#
「マドラス」は、インドの農民が使う布として生まれました。
マドラスという布名は、当時のインド南東部のタミル・ナードゥ州の州都マドラスにちなんだものです。現在のインド南東部のタミル・ナードゥ州のチェンナイ(Chenna)市にあたる土地です。
当時のチェンナイでは、土着の植物性染料で糸を染色、手織りし、精巧な模様をオーバープリントしたり、刺繍したり、さまざまな綿織物をつくっていました。
1639年8月イギリス東インド会社が、チェンナイを当時の領主から買収し、「マドラス」と改名します。このときの由来は、マドラスパッティナム(Madraspattinam)という小さな漁村名からでした。
マドラスの布製品は、土着的な長い営みでインドの文化を形成し、民族衣装などにも適応されていきました。
19世紀初頭のタミル・ナードゥ州では、マドラスシャツ、マドラスガーゼ、マドラスモスリン、マドラスギンガム、マドラスハンカチなど、多くのマドラス布製品が生産されていました。
本格的なイギリス軍のインドへの侵略と植民地化により、マドラスはヨーロッパへの輸入が開始されます。当時のイギリス人はよろこんでこの布を生活に取り入れていくことになります。
イギリス領インド帝国のマドラス管区に、布の「マドラス」はあったのです。つまり、イギリス人が打ち立てたものだったのです。現在では、植民支配がなくなり、マドラス地区はチェンナイ市にもどっています。
植民地とグローバル化のタイミングでヨーロッパは、インドやアフリカやマレー半島などさまざまな布文化を融合して取り入れたことがうかがえます。
さらにそれが現在まで続く、繊維工業のグローバル・スタンダードへと定着しています。ちなみに、CLOTHCHORDではこの固有名で抑えきれない意味を追求しています。
「マドラス」がアメリカに渡ったのは、1718年にコネチカット大学(現在のイェール大学)への寄付されたことがきっかけです。
シャツメーカーのDavid J. Andersonが1844年に「マドラス」いう名前を商品化しましたが、布自体はそれ以前からマドラスと呼ばれていました。
アメリカのシアーズは、1897年のカタログで、最初のマドラスシャツを販売しはじめます。
アメリカでは、格子縞の綿のマドラスシャツは、1960年代に第二次世界大戦後のプレッピーベビーブーマーの世代の間で人気となりました。
インドの農民階級の布だったマドラスは、ステータスシンボルになるまでアメリカに普及し、ブランド化されていったのです。
ここで、「マドラス」のきほん情報を整理します。
繊維 綿/植物繊維/セルロース繊維
組織 平織り
起源 インドの農民が使っていた織り物を、植民地支配していたヨーロッパが輸入
マドラスのみほん#
「マドラス」のいま・きほん・むかしの情報から、「マドラス」の使い方のみほんを導き出しました。名品・定番となった服を知ることで今後の参考になるはずです。
マドラスに向く製品の
夏の衣類、パンツ、ショートパンツ、ドレス、ジャケットなど、タータンチェック柄。
「マドラス」の他の布との違いは、
- もともとインドのマドラス地区で生まれた普遍的な布であったこと
- ランダムな配色で複雑なチェック模様である
このふたつにポイントがあり、
- 夏の衣類
- パンツ
- ショートパンツ
- ドレス
- ジャケット
などにマドラスチェック模様を活かせるという結論が出ました。
それでは、「マドラス」のさらなる価値はどこにあるのか。その答えを導き出すために、素材のちがいの理解が必要だと考えています。
『繊維の違いを知る』もあわせて読んでください。
「マドラス」の布の価値の探求は、今後も続けていき、さらに更新していく予定です。
本サイトCLOTHCHORDの『布の違いを知る』では、他の布も同じように布の違いの価値を探求しています。
さまざまな布の知ることで、布への違いの理解が深まり、視野がひろがるはずです。
マドラスの参考資料#
出典:日本産業標準調査会ウェブサイト (www.jisc.go.jp/)